2016年3月31日に社会福祉法等の一部を改正する法律」が成立しました。その概要は次のとおりです。なお、一部の具体的な内容については未決定であり、今後の政令、省令等の改正を待つ必要があります。


 目的

福祉サービスの供給体制の整備及び充実を図りつつ、社会福祉法人の公益性・非営利性を確保する。


・社会福祉法人制度について経営組織のガバナンスの強化、事業運営の透明性の向上等の改革を進めることで、国民に対する説明責任を果たし地域社会に貢献する法人の在り方を徹底する。
・介護人材の確保を推進するための措置、社会福祉施設職員等退職手当共済制度の見直しの措置を講ずる。


 主な内容

1.社会福祉法人制度の改革

(1)経営組織のガバナンスの強化

(改正後の役員等の役割・権限等の比較はこちら)

○議決機関としての評議員・評議員会を必置

・全ての法人において評議員・評議員会を設置することが必須とされました。(これまでは、保育所、介護保険事業等のみの運営法人は設置不要)
・評議員会は運営に関する重要事項の議決を行う機関とされました。(これまでは、諮問機関の位置づけ)
・評議員について、評議員会の招集請求権、議題提案権といった権限と併せて、善管注意義務、損害賠償責任、特別背任罪の適用などの義務・責任も明確化されました。
・評議員の選任は理事・理事長等が行うことは認められず、定款に定める方法によることとされました。具体的には、中立の評議員選任・解任委員会による方法が示されています。
・評議員は理事との兼任が認められない、役員の親族等の特殊関係者はなれないなど、資格が厳しく制限されました。

○各役員等の権限・責任等に係る規定の整備

・理事会、理事、理事長、監事の役割・権限・責任等が明確化されました。
・理事会は業務執行の決定、理事の職務執行の監督等を行う機関とされ、重要な業務執行に関する決定は理事会の専決事項とされました。また、善管注意義務、評議員会・監事への説明・報告義務、損害賠償責任、特別背任罪の適用など、理事の義務・責任が明確化されました。
・理事長は業務執行権および法人の代表権を有する者として位置づけられました。(これまでは、原則として各理事に代表権があった。)また、理事長以外に業務執行権を有する業務執行理事を選定できるとされました(代表権はない)。理事長・業務執行理事には理事会への報告義務があることなどが明確化されました。
・監事について、事業の報告要求、業務・財産の状況調査といった権限と併せて、善管注意義務、評議員会・理事会への説明・報告義務、損害賠償責任などの義務・責任が明確化されました。

○一定規模以上の法人への会計監査人の導入

・一定規模以上の法人(特定社会福祉法人)について、会計監査人による計算書類・附属明細書・財産目録の監査が義務付けられました。

※一定規模以上の法人(特定社会福祉法人)
社会保障審議会福祉部会報告書(平成27年2月12日)では、次の範囲とすることが適当とされています。
①収益(事業活動計算書におけるサービス活動収益)が10億円以上の法人(当初は10億円以上の法人とし、段階的に対象範囲を拡大)
②負債(貸借対照表における負債)が20億円以上の法人
具体的には省令により定められる予定ですが、段階的な導入も議論されており、まだ方針が決まっていない模様です。

・会計監査人になれるのは、公認会計士又は監査法人のみとされています。
・改正後の計算書類等の作成、監査、承認、届出の流れは次のとおりとなります。

(図)
・なお、会計監査人の設置の義務付けの対象とならない法人については、各法人の状況に即して、財務会計に関する事務処理体制の向上や内部統制の向上などの必要な支援を選択して、公認会計士・税理士等の専門家を活用することが考えられるとされています。

<社会保障審議会福祉部会報告書(平成27年2月12日)>
会計監査人の設置の義務付けの対象とならない法人については、
-公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人による財務会計に係る態勢整備状況の点検等
-監事への公認会計士又は税理士の登用
を指導し、こうした取組を行う法人に対する所轄庁による監査の効率化を進めることが適当である。」


◯内部管理体制の整備

・一定の事業規模を超える法人(会計監査人設置が義務付けられる法人)は、法人のガバナンスを確保するために、社会福祉法人の業務の適正を確保するために必要な内部管理体制(※)の整備について、基本方針を理事会において決定し、当該方針に基づいて、規程の策定等を行うこととなります。

※社会福祉法人の業務の適正を確保するために必要な内部管理体制として、次の事項が省令で規定される見込みです。
①理事の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
理事の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
損失の危険の管理に関する規程その他の体制
理事の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
職員の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
監事がその職務を補助すべき職員を置くことを求めた場合における当該職員に関する事項
の職員の理事からの独立性に関する事項
監事のの職員に対する指示の実効性の確保に関する事項
理事及び職員が監事に報告をするための体制その他の監事への報告に関する体制
の報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制
監事の職務の執行について生ずる費用の前払又は償還の手続その他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項
⑫その他監事の監査が実効的に行われることを確保するための体制


○その他

・定款の変更は評議員会の決議が必要とされました。その後、所轄庁の認可を受け、効力が生じることとなります(事務所所在地、資産に関する事項、公告の方法は届出事項)。
・評議員、評議員会、理事、理事会、監事、会計監査人に関する事項が定款記載事項となりました(所轄庁の認可必要)。
・定款を電磁的に作成することが可能となりました。
・社会福祉法人の清算・解散・合併に関する規定が見直されました。

(2)事業運営の透明性の向上

◯閲覧対象書類の拡大と閲覧請求者の国民一般への拡大

・次の書類を各事務所に備置しなければならないこととされました(主たる事務所に5年間。従たる事務所に3年間)。(下線が今回追加されたもの)

定款(誰でも閲覧請求が可能。評議員、債権者は謄本等の交付の請求も可能)
−計算書類(貸借対照表、収支計算書)、事業報告書、附属明細書、監査報告書
−財産目録
−役員等名簿
役員等報酬基準
現況報告書
事業計画書

・これらの書類について誰でも(国民一般)閲覧請求が可能とされ、請求があった場合には正当な理由なしに拒否できないこととされました(これまでは、利害関係人のみが閲覧可能)。
・評議員および債権者はこれらの書類の謄本または抄本の交付請求も可能です。

○財務諸表・現況報告書・役員報酬基準等の公表に係る規定の整備等

・次の書類をインターネットにより公表しなければならないこととされました。(下線が今回追加されたもの)

定款(設立の認可、定款変更の認可または届出後遅滞なく)
−貸借対照表、収支計算書、現況報告書(所轄庁への届出後遅滞なく)
役員等報酬基準

◯現況報告書への役員ごとの報酬総額の記載

・現況報告書には役員ごとの報酬総額を記載することとされました。(閲覧・公表の対象となる)

◯社会福祉法人会計基準の法令化等  【H28】

・社会福祉法人会計基準が省令に格上げされ(これまでは局長通知)、規範性を有するものとされました。
・会計帳簿、事業に関する重要な書類、計算書類、附属明細書の保存期間が法律上で明記されました。(10年間)

(3)財務規律の強化 (適正かつ公正な支出管理・内部留保の明確化・社会福祉充実残額の社会福祉事業等への計画的な再投資)

○役員等報酬基準の作成と公表

・理事、監事、評議員の報酬等について支給の基準を定め、これに従って報酬の支給をしなければならないとされました。
・民間事業者の役員報酬等および従業員の給与、法人の経理の状況、その他の事情を考慮し、不当に高額なものとならないような支給の基準とすることとされています。
・支給基準の設定および変更は評議員会の承認が必要となります。

○役員等関係者への特別の利益供与を禁止 【H28】

・法人は、その関係者(評議員、理事、監事、職員、設立者、それらの親族など)に対して、特別の利益を供与してはならないこととされました。

○「社会福祉充実残額(再投下財産額)」の明確化

・福祉サービスに再投下可能な財産額である社会福祉充実残額の算定方法が次のように明確化されました。

  社会福祉充実残額 = 純資産の額 ー 事業継続に必要な財産額

①事業に活用する土地、建物等
②建物の建替、修繕に必要な資金
③必要な運転資金
④基本金、国庫補助等特別積立金

○「社会福祉充実残額」保有法人について「社会福祉充実計画」の作成を義務付け等

・「社会福祉充実残額」を保有する法人は、社会福祉事業または公益事業の拡充または新規実施に関する計画(「社会福祉充実計画」)を作成し、所轄庁の承認を受けることが必要とされました。計画が承認された後、法人は当該計画に従って事業を行わなければなりません。
・「社会福祉充実計画」には、事業の規模・内容、事業区域、事業費、社会福祉充実残額、計画実施期間などを記載することとされています。
・「社会福祉充実計画」の作成にあたっては、次の手続きが必要とされています。

−事業費および社会福祉充実残額について、公認会計士・税理士などの財務に関する専門的な知識経験を有する者からの意見聴取
−地域公益事業の内容および事業区域における需要について、当該事業区域の住民その他の関係者からの意見聴取(地域公益事業を行う計画を含む場合)
−評議員会の承認

・「社会福祉充実計画」を変更する場合、やむを得ない事情で終了(中止)する場合は、あらかじめ所轄庁の承認を受けることが必要とされています。また、変更後の計画について新規の計画の場合と同様に所轄庁の承認を受ける必要があります。なお、軽微な変更については所轄庁への届出のみとなります。

(4)地域における公益的な取組を実施する責務

○社会福祉事業および公益事業を行うにあたっての責務を規定  【H28】

・社会福祉事業および公益事業を行うにあたっては、日常生活または社会生活上の支援を必要とする者に対して、無料または低額な料金で福祉サービスを積極的に提供することが責務として規定されました。

(5)行政の関与の在り方

○所轄庁による指導監督の機能強化、国・都道府県・市の連携等  【H28】

・都道府県は、市による指導監督を支援する役割に位置付けられました。また、国・都道府県・所轄庁の連携が規定されました。
・所轄庁による報告徴求・立入検査の規定が明確化され、また、適用される状況が拡大されました。
・これまでの改善命令・業務停止命令・役員解職勧告・解散命令といった行政処分に加え、改善勧告および当該勧告に従わない場合の公表の手続きが規定され、所轄庁による柔軟な指導監督が可能となりました。

◯都道府県による財務諸表等の収集・分析・活用、国による全国的なデータベースの整備

・所轄庁への届出書類が次のものとなりました。 (下線が今回追加されたもの)

−計算書類(貸借対照表、収支計算書)、事業報告書、附属明細書、監査報告書
財産目録
役員等名簿
役員等報酬基準
−現況報告書
社会福祉充実計画(社会福祉充実残額を保有する場合)

・上記の届出の多くは電子化(ペーパーレス化)されることが計画されています。
・各都道府県において社会福祉法人に関する調査・分析を行い、その内容を公表し(努力)、厚労省への報告を行うこととされました。
・厚労省は社会福祉法人に関する情報に係るデータベースの整備を図ることとなりました(社会福祉法人の財務諸表等開示システム。2017年6月本格稼働予定)。これにより、上記の届出電子化、都道府県による調査・分析を可能とし、さらに、国民への情報提供も行われることとなります。

2.福祉人材の確保の促進

(1)介護人材確保に向けた取組の拡大

○福祉人材の確保等に関する基本的な指針の対象者の範囲を拡大(社会福祉事業と密接に関連する介護サービス従事者を追加)  【H28】

(2)福祉人材センターの機能強化

○離職した介護福祉士の届出制度の創設、就業の促進、ハローワークとの連携強化等

(3)介護福祉士の国家資格取得方法の見直しによる資質の向上等

○平成29年度から養成施設卒業者に受験資格を付与し、5年間をかけて国家試験の義務付けを漸進的に導入等  【公布】

(4)社会福祉施設職員等退職手当共済制度の見直し

○退職手当金の支給乗率を長期加入者に配慮したものに見直し  【H28】

○被共済職員が退職し、再び被共済職員となった場合に共済加入期間の合算が認められる期間を2年以内から3年以内に延長  【H28】

○障害者支援施設等に係る公費助成を介護保険施設等と同様の取扱いに見直し  【H28】

 施行日

○以下を除き2017年4月1日

○1の(2)と(3)の一部,(4),(5)の一部、2の(1),(4)は2016年4月1日

○2の(3)は公布の日(2016年3月31日)